かえってこない

2021/1/19

1月18日。ケータイ電話を失くした。根が心配症なので、携帯電話や財布を失くすことはずっとなかっただけに、そのショックは大きなものだった。しかも、正月に引いた大吉のおみくじも差し込んでいて、やっぱり私には大吉を引く資格なんかなかったような気がして、雪の嵐の中を呆然と運転しながら、大野から家へ帰ってきた。去年、左胸を失った時の感覚とは、全く違う、むしろどこか恐ろしさがつきまとう喪失感があった。切り離された、というよりも、自分の記憶を一部置いてきてしまった。取り返さなければという悔しさが強くて、食欲さえ減退してしまっていた。どうして落としてしまったんだろうという後悔に堪えきれなくて、早々と寝ることにした。すると、寝落ちする直前に同じように横たわる目の窪んだミイラのような顔が目の前に現れた。一体、あなたは誰なの?私のようで、私ではない。あなたが私のケータイ電話を持って行ったの?青白いケータイの光に照らされているようなミイラの顔がふんわりと笑った気がした。わかったわかった。あのケータイは私のずいぶんお気に入りだったし、大切なものが入っていたのだけども、あなたにあげるよ。存分に楽しんでおくれよ。データはクラウドにバックアップされているからさ。ただ、勝手に課金して漫画は読むなよ。ミイラと会話して、朝、起きる。夫が昨年亡くなった義父のiPhoneを大切に保管してあることを教えてくれた。使わせてもらうことになった。ケータイショップでSIMカードを再発行し、写真をバックアップして、手を合わせて、リセットする。今はその待ち時間にある。デジタルは心がないなんて言ったのは誰だよ。しっかり根が張っちゃってるじゃないか。心が苦しくなるのは、なぜなんだよ。どれもこれもかえってこない。だけど、このことは忘れない、忘れたくないと思うんだ。