今年の3冊

2020/12/31

2020年は、たくさんの人がいつもと違う一年になったと思う。私もコロナウイルスに始まり、乳がん、家族の死という立て続けに起こる出来事に、どこか現実味がないような実感の伴わない時間を過ごすこともあった。だけど、そんな中でも本はたくさん読んだし、かけがえのない出会いや貴重な経験をすることもできて、振り幅の大きな年だったように思う。

今年の3冊を選ぶとすれば、壁井ユカコさんの『2.43 清陰高校男子バレー部』、上田聡子さんの『金沢 洋食屋ななかまど物語』、ロクエヒロアキさんの『だめなやつら』だろう。

いずれの3冊も、作品自体の素晴らしさは当然ながら、作者の方の創作の裏側を身近に感じさせてもらった。結果的に、私が漫画を描きたいという原動力のきっかけをくれた3冊だったと言っても良い。もちろん、『鬼滅の刃』や『僕のヒーローアカデミア』に出会えたこともそういった気持ちを加速させているのだけど、小説をこんなにも読み込んで、反芻して、絵を立ち上がらせるということまでできたのは、自分にとっても初めての経験になった。

2.43のユニチカ、ななかまどのちなっちゃんと丹羽くん、だめなやつらのほやさんと水引くんが、もう私の心の中にしっかりと棲んでしまっている。いつでも挨拶をして、最近何してるかな?と思いを馳せることもできる。そんなふうに身近に感じられるのは、作られた世界の余白と寛容さなのかもしれないと思う。きっと彼らの物語は、今でも続いているのだから。

私もひと針ひと針、ほんの少しだけど編み出している。それがいつまでどこまでいけるのかはわからないけれど、ずいぶん高揚していて、主人公がいつもそばにいてくれるので楽しい。来年は彼の姿をどこかで見てもらえたらと思うのだが。焦らずに編んでみたい。